「やぁ、招待状を貰ったから、来てみたよ。久しぶりだね、槐」
穏やかな声音とは真逆に気を尖らせた直桜に、護が息を飲んだ。
「ああ、久しぶり。十年振りくらいかな。随分と背が伸びたな。俺が集落を出る前はまだ小さな子供だったのに。時の流れを感じるよ」
槐が不自然なまでに穏やかに笑む。
「そっちは随分、ガタイが良くなったね。集落にいた頃は、ヒョロ長の優男だったのに。反社のリーダーって筋肉必要なんだね」
「元々リーダーだった母親が死んだからね。引継ぎやら儀式やらで体力がいるんだ。気が付いたらガチムチになっててさ。男前になっただろ?」
まるで正月に久々に会った親戚のような会話に、うんざりする。
(槐の母親、死んだのか。俺を異端と罵った、集落の術法を盗んで逃げた女。外で再婚したって聞いてたけど、やっぱり反魂儀呪に残ってたんだな)
槐が集落を出るより早く、槐の母親は集落を裏切った。そのせいで八張家の肩身が狭くなり、槐への長たちの当たりがきつくなったのは事実だった。
「前の方が良かったよ。あんまりガチムチだと気持ち悪い」
直桜の返事に、槐は吹き出した。
「そっか、直桜の好みは優男の方か。だから、化野護を好きになった? けど彼も鬼化したらガチムチだろ?」
直桜の隣にいる護が反応して前に出ようとするのを、止める。
「どうやら俺、見た目で人を好きになるタイプじゃないらしい。それに、好きになったら一途っぽいから、護はあげないよ」
護の前に出る。
槐の目が、笑んだまま暗く座った。
「狡いなぁ。俺の方が先に目を付けていたのに。13課に奪われて直桜にまで持っていかれちゃった